看護系大学は、4年で卒業するのが当たり前なのか

※本稿でいう「看護系大学」とは、四年制大学に設置された看護師養成課程を指します。看護系の単科大学だけでなく、総合大学等に設置された看護学部・看護学科なども含みます。

私が看護学生だった頃には、「大学を卒業した看護師は貴重だ」といわれることがありました。

その後、看護系大学は急速に増加しました。日本看護系大学協議会(JANPU)の2026年7月公表資料によると、全国には295大学、313の看護系学士課程があり、入学定員は約2万7,000人となっています。このうち、JANPUには312課程が加盟しています。

厚生労働省の資料では、2025年度の大学の看護師養成課程は、入学定員26,953人に対して入学者26,871人、定員充足率99.7%でした。一方、看護師養成所の3年課程は、入学定員26,244人に対して入学者20,868人、定員充足率79.5%となっています(厚生労働省「看護を取り巻く現状について」)。

看護師教育において、四年制大学はもはや珍しい進路ではありません。

では、看護大学に入学した学生のうち、留年や休学をせず、4年間で卒業している学生はどのくらいいるのでしょうか。

見えにくい留年・休学・卒業延期

意外なことに、この問いに答えられる全国的な統計は、容易には見つかりません。

文部科学省の調査によると、2024年度における大学全体の中途退学者は50,516人、在籍者に占める割合は2.00%、休学者は68,239人、2.70%でした。しかし、この調査では、看護学部・看護学科だけの数値は示されていません(文部科学省「令和6年度学生の中途退学者・休学者数等に関する調査結果」)。

一方、厚生労働省の「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」では、入学時学生数、転入・転出者数、前年度卒業延期者数、退学者数、卒業延期者数などが調査項目に含まれています(厚生労働省「医療関係職種の養成・確保体制の在り方について」)。

つまり、退学者や卒業延期者が「調査されていない」わけではありません。しかし、看護系大学の留年・休学・卒業延期の状況を、大学別、設置主体別、年度別に比較できる形では十分に公表されていないのです。

退学者数だけを見ても、学生の状況を十分に捉えることはできません。表面上は在籍を続けていても、学業や実習、人間関係、経済的な問題などによって摩耗している学生は、もっと多いのではないでしょうか。

看護大学が抱える二つの性格

看護大学には、「大学」であると同時に「看護師養成機関」でもあるという二つの性格があります。

大学には本来、幅広い教養、主体的な学修、研究的な思考、進路選択の自由などがあります。一方、看護学部では、保健師助産師看護師学校養成所指定規則に基づく科目、演習、臨地実習が組み込まれています。

さらに、多くの大学では履修に順序性があります。一つの科目が不合格になると、次の科目を履修できない。必要な単位が取れなければ実習に行けない。その結果、一科目の不合格が一年間の卒業延期につながることもあります。

こうした仕組みには理由があります。

学生とはいえ、臨地実習では患者さんにケアを提供します。患者さんの安全に配慮し、根拠を理解したうえで援助を行う必要があります。専門職として賃金を得る以上、身につけておくべき知識や技術と、負うべき責任があります。看護学生の期間は、そのための訓練期間でもあります。

看護学生の知識や実践能力を、どのように客観的に確認するかという検討も進んでいます。JANPUは臨地実習前の学生を想定したComputer Based Testing(CBT)の実証事業を行っており、Objective Structured Clinical Examination(客観的臨床能力試験:OSCE)についても検討しています(JANPU「看護学教育の質保証に関する要望書」)。

したがって、すべての学生を無条件に進級・卒業させればよいという話ではありません。

しかし、ここで考えたいのは、最短年限で卒業できなかった責任を、すべて学生本人に帰してよいのかということです。

単位を認定する教員の責任

大学教員は、学生の単位を認定する権限を持っています。同時に、評価基準を明確に示し、客観性のある試験や課題を設定する責任があります。

気に入らない学生だから単位を与えないことがあってはなりません。一方で、評価するのが面倒だから全員を合格させることも許されません。学生が身につけるべき知識や技術を、実際に身につけたかどうかを確認する必要があります。

看護師教育では、筆記試験だけでなく実技試験も行われます。知識があっても、それを実践に移せなければ患者さんへの援助にはつながらないからです。

ただし、実技試験や実習では、教員の関わり方が学生の力の発揮に影響します。教員の態度によって学生が過度に緊張し、萎縮してしまうこともあります。その結果として「実力を発揮できなかった」のであれば、それを学生の能力だけの問題としてよいのでしょうか。

「分からなければ聞きに来なさい」と言う教員は少なくありません。

しかし、学生が実際に聞きに行ったとき、十分に対応しているでしょうか。分かりにくい授業をしておきながら、「授業をきちんと聞いていなかったからだ」と一方的に断じてはいないでしょうか。

もちろん、授業を聞かず、準備や練習をしない学生もいます。現実には「どちらにも改善すべきところがある」ということなのでしょう。ただし、教育する側が自らの授業や指導を検証せず、学生の自主性だけを求めることには問題があります。

「自主性」が自己責任になっていないか

看護学生には、多少の困難があってもぶれない意思を持ち、自分で考えて行動する力が必要だといわれます。

青年期にある学生が自分を理解し、自分の意思で物事を決定し、その決定に責任を持てるよう支えることは、確かに大切です。

しかし、それがお題目になってはいないでしょうか。

学生の自主性を育てることと、「大学生なのだから自分でやりなさい」と突き放すことは違います。自主性は、失敗しても相談できる環境や、必要な支援を受けられる関係の中で育つものではないでしょうか。

栗原・末永による文献検討では、看護学生の退学理由として、次の六つが示されています。

  • 環境や対人関係の不適合
  • 看護師には向かないことへの気づき
  • 看護への興味や看護師になる意思の欠如
  • ついていけない学習への負担感
  • 学業を継続するための支援不足
  • 人生における危機や転機への直面

退学は、学力や本人の意思だけで決まるものではありません。教員からの支援、健康問題、家族の事情、経済的問題などが重なり、学業の継続が難しくなることがあります(栗原淳子・末永真由美「看護学生の退学理由に関する文献検討」『日本看護学教育学会誌』36巻1号、2026年)。

アルバイトについても同様です。

「学生の本分は学業にある」という考えは間違いではありません。しかし、現在の学生がアルバイトをする理由は、遊ぶお金が欲しいからとは限りません。学費や生活費を賄うために働かざるを得ない学生もいます。「アルバイトをしていたから勉強できなかったのだ」と評価するだけでは、根本的な解決にはならないでしょう。

入学させた大学の責任

各大学は、アドミッション・ポリシーを掲げ、それに基づいて学生を選抜しているはずです。

文部科学省は、アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーの三つについて、相互の一貫性を求めています(文部科学省「三つの方針の策定及び運用に関するガイドライン」)。

また、厚生労働省の看護師等養成所の自己評価指針でも、入学者選抜方法と入学後の成績の推移を踏まえ、選抜方法の妥当性を評価する必要があるとされています(厚生労働省「看護師等養成所の教育活動等に関する自己評価指針」)。

その学生に対して、入学後に安易に「看護師に向いていない」「大学で学ぶ力が不足している」と評価するのであれば、入学者選抜は適切だったのかという問いも生じます。

少子化によって学生募集が難しくなるなか、各大学には定員を確保しなければならない事情もあります。しかし、学生を入学させる以上、ディプロマ・ポリシーに示した能力を身につけられるよう教育し、支援する責任があります。

入学時の能力だけを問題にするのではなく、入学後に大学がどのような教育を提供し、学生をどのように成長させたのかも問われるべきでしょう。

4年間で卒業することだけが成功なのか

留年や休学をせず、4年間で卒業できるのであれば、それに越したことはありません。留年すれば学費や生活費の負担が増え、奨学金にも影響します。

日本学生支援機構では、成績不振による留年期間中は貸与奨学金に新たに申し込むことができず、修業年限内での卒業ができないことが確定した場合には、原則として給付奨学金の申込資格を失います。ただし、災害、傷病その他のやむを得ない事情がある場合には例外があります(日本学生支援機構「現在留年中です。在学採用へ申し込むことはできますか」)。

また、第115回看護師国家試験では、新卒者54,036人のうち50,862人が合格し、合格率は94.1%でした。これに対して、新卒者以外は、全体との差から計算すると5,578人中1,804人が合格し、合格率は約32.3%となります(厚生労働省「第115回看護師国家試験合格発表」)。

ただし、この「新卒者以外」には、卒業延期をした学生ではなく、すでに学校を卒業して国家試験を再受験する人などが含まれます。そのため、この数字をそのまま留年者の合格率と解釈することはできません。

それでも、学校を離れた後に国家試験の学習を継続することの難しさは示唆されています。

しかし、留年した学生が看護師に向いていないとは限りません。留年した経験が、その後の看護師人生に必ずしも不利益になるとも限りません。

病気や家族の事情、経済的な困難、人間関係のつまずきなど、学生が学業を中断する理由はさまざまです。一度立ち止まり、自分の学び方や進路を考え直す時間が、長い人生の中で意味を持つこともあります。

看護師になることは、学校生活のゴールです。しかし同時に、看護職として、社会人として生きていくスタートでもあります。

大学で身につけるべきものは、4年間で国家試験に合格する力だけではありません。困難に直面したときに助けを求め、自分の状態を理解し、必要に応じて進路を修正しながら、その後の人生をデザインしていく力も大切なのではないでしょうか。

学生を支援することは、教育水準を下げることではありません。求められる水準に到達できるよう、学習環境や生活環境を整えることです。

看護学生を途中で切り離さず、必要な支援につなげる仕組みを整えることは、一大学だけの課題ではありません。

それは、これからの医療を支える人材を、社会全体でどのように育てるのかという問題でもあると思います。

参考資料

日本看護系大学協議会「大学で看護を学ぼう!」2026年7月

厚生労働省「看護を取り巻く現状について」

厚生労働省「看護師等学校養成所入学状況及び卒業生就業状況調査」

文部科学省「令和6年度学生の中途退学者・休学者数等に関する調査結果」

栗原淳子・末永真由美「看護学生の退学理由に関する文献検討」

厚生労働省「保健師助産師看護師学校養成所指定規則」

文部科学省「三つの方針の策定及び運用に関するガイドライン」

日本学生支援機構「奨学金の休止・復活」

厚生労働省「第115回看護師国家試験合格発表」